ジャン・ジュネ、まがいものの美と聖性


泥棒日記 朝吹三吉訳
新潮文庫
父なし子として生まれ、母に
捨てられ、裏切りと盗みをお
ぼえ、泥棒と男娼をしながら
ヨーロッパを放浪し、前半生
のほとんどを牢獄ですごした
ジュネの自伝的作品。牢獄
で詩作と小説の創作をはじ
め、その悪をたたえ、殺人を
挑発する壮麗化に満ちた作
品によって、終身禁固となる
ところをサルトルやコクトーら
の運動により特赦を受け、ジ
ュネの作家人生が始まる。
花のノートルダム 堀口大學訳
新潮文庫
男娼ディヴィーヌ、女衒ミニョ
ン、殺人犯"花のノートルダ
ム"、黒人ゴルキとその恋人
……汚辱に満ちた人々の生
を、聖と俗、美と醜、善と悪
を反転されることにより、壮
麗化してゆくジュネの小説
の処女作。
薔薇の奇蹟 堀口大學訳
新潮文庫
十六歳で強姦殺人を犯し、
さらに十五年後に看守を殺
害したアルカモーヌ、十六歳
の時ナイフで少年の目をつ
ぶしたジュネ、フォントブロー
刑務所随一の乱暴者ボチャ
コ、脱獄に失敗して銃殺され
たビュルカン、メトレ感化院
時代の稚児ジュネの情夫デ
ィヴェール……まがいものの
美学で、悪を聖化してゆくジ
ュネの代表作。
黒んぼたち・女中たち 収録作品
「死刑囚監
視」(戯曲)
一羽昌子訳

「女中たち」
(戯曲)
一羽昌子訳

「黒んぼたち
〜道化芝居」
(戯曲)
白井浩司訳

「アダム・ミロ
ワール」(バレ
エ台本)
一羽昌子訳
犯罪者の位階勲章への渇
望をテーマにした「死刑囚監
視」、自分の境遇を恥辱と感
じ、奥様にあこがれる女中た
ちが、やがてニセ女中とニセ
奥様を演じはじめ、実在界と
想像界が反転し始める「女
中たち」、色彩・歌・音楽・ダ
ンス・仮面といった要素を道
化芝居に組み込み、白人の
想像する黒人のイメージとい
う主題を浮かび上がらせた
「黒んぼたち」、唯一のバレ
エ台本「アダム・ミロワール」
を収録。
ブレストの乱暴者
澁澤龍彦訳
河出文庫
港町ブレストの殺人犯クレル
と、瓜二つの弟ロベール。そ
して、彼らを愛する淫売屋の
おかみリジアーヌ。分身たち
の輪舞により、悪と汚辱の
中から奇跡的な愛が生成さ
れる。
葬儀 生田耕作訳
河出文庫
ナチス・ドイツの協力軍の語
り手は、レジスタンスの闘士
ジャンへの愛を語り、自身の
情夫であるドイツ兵エリック
と対独協力兵リトンとの同性
愛を語りつつ、自身をリトン
に重ね合わせ、さらに想像
の中でベルリンの死刑執行
人やヒットラー、ジャンの兄
ポーロと交わる。裏切りの美
学を貫き、良識を逆なでする
スキャンダラスな小説。
聖ジュネ(上)
(ジャン=ポール・サルトル著)
白井浩司・平
井啓之訳
新潮文庫
ひとりの捨て子が、彼を引き
取った貧乏な百姓から盗み
を行い、少年感化院からも
脱走し、窃盗強奪、売色行
為を繰り返し、さらには悪を
行うよりも、悪を表現すること
がより最悪であると考え、殺
人行為をあおるような作品を
書く。だが、そのことで彼は
フランス共和国大統領によ
り、懲役刑を赦免され、卑
賤、貧窮、牢獄から抜け出
すにいたる。サルトルは、実
存主義的精神分析の手法を
駆使して、この怪物作家ジャ
ン・ジュネの内部を解明し尽
くそうとする。サルトルは、ジ
ュネの世界に、ほんものとに
せもの、善と悪、聖と俗、美
と醜の弁証法を見出し、悪を
欲することで、悪から美へ、
美から聖へ変貌を遂げてゆ
くジュネの精神を暴いた。す
べてを暴かれたジュネに、
沈黙の時期が訪れる。
だが、再び活動を開始した
ジュネは、演劇(アルジェリ
ア戦争を背景にした『屏風』
など)や政治(ブラックパンサ
ーへの連帯と、パレスチナ
支持など)の世界に突入して
ゆく。ジュネの最終的到達
地点は、『恋する虜』に詳し
いが、それは善と悪、聖と
俗、美と醜のサルトル的弁
証法の閉域すら食い破る行
為だった。ジャック・デリダの
『弔鐘(グラ)』は、サルトル的
弁証法のさらなる外を語る
試みといえよう。
聖ジュネ(下)
(ジャン=ポール・サルトル著)
白井浩司・平
井啓之訳
新潮文庫


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